いのちにつながるコミュニケーション
和解の祝福を生きる
富坂キリスト教センター編
田代麻里江・小笠原春野・酒井麻里・白石多美出・三村修・岡田仁 共著
装丁 トリオデザイン 藤原俊和
いのちのことば社
富坂キリスト教センター
人間関係とコミュニケーション研究会 成果刊行物
目次
はじめに
第1章 日常のコミュニケーション
《事例》と《解説》
1 とにかく話を聴いてください
2 幸せの食卓は紙一重
3 子どもとともに育つ
4 僕は学校へ行きたくない
5 先生、どうしてわかってくれないの?
6 私たち怪しい団体じゃないんだよ
7 まぁ、仕事だからな、しかたがないよ
8 がんばれないけど、がんばりたい
9 歳を重ね変わっていく母を愛するとは?
10 仲間として参加したいんだ
11 なんだかちょっと難しい人
12 燃え尽きたオルガニスト
13 顔を見ながら話そう
14 古臭いとは、失礼な!
第2章 希望のしるし
1 ありのままの声を聴く
2 社会倫理と霊性
第3章 聖書の中のコミュニケーション
1 「わたし」と「あなた」の関わり
2 かけがえのない「わたし」
3 「わたしたち」のいのちが生きるコミュニティ
4 世界の中の「わたしたち」
第4章 和解の祝福を生きる
1 良かった(トーヴ)--無条件に私たちのいのちを祝福する神の言葉
2 和解とは--共感としての愛
3 自分との和解--自己共感
4 キリストの和解
5 生きる苦悩
6 祈り・身体性
7 聖霊とともに歩む
8 泣きながら夜を過ごす人にも
おわりに
新たな関係と対話に向かって
付録
1 NVCについて
2 ファシリテーション
3 ユマニチュード
4 役に立つその他の様々な手法、研究、実践
あとがきー私たちの物語
本書より
本書の特徴を知る手がかりとして、あちこちから抜き書きしてみました。立ち読み感覚でどうぞ。
神を信じていれば、聖書を読んでいれば、信仰に熱心であれば、自然に良い人間関係が結べると思いがちです。人との良いつながりをつくるために、確かに私たちは神の力、つまり聖霊に拠り頼む必要があります。同時に、神は私たちに、人間関係を円滑にするための知恵をも与えてくださっています。そこで、私たちはそのような知恵からも学びたいと考えました。
人と人とのコミュニケーションで表にあらわれている言葉や態度は、氷山のほんの一角です。水面下にある見えない部分には、ふだん気に留めていない様々な心の動きや深い願い、これまでの私たちの体験が詰まっています。この本では、その部分に光をあてようと思います。理解を深めるために、臨床心理学や脳科学、カウンセリングやファシリテーションなど様々な研究や実践を参照しています。
- はじめに より
静かにドアが閉まり、青山牧師は深く呼吸をした。何かができたわけでも、問題が解決したわけでもなかった。今回も神がそこにいて、導いてくださった、とつくづく感じた。
彼女がやってきたのは1時間ほど前。牧師はたまった書類を整理しようと事務室で仕事を始めたところだった。40代半ばの女性が突然訪ねて来て、ものすごい剣幕だった。
「先生、とにかく話を聴いてください。私はもう耐えられないんです!」
だれかが教会にやってきて、話を聴いてほしいと言われるのはよくあることだ。青山牧師は静かに仕事の手を止め、「わかりました。一時間だけですが、それでもよいでしょうか?」と答えた。女性は「はい」と言い、机の前のソファに座った。
-第1章 1《事例》 より
聖書は、イエスと律法の専門家との対話を記録しています。
ある律法の専門家が「隣人を自分のように愛しなさい」という律法についてのやりとりの中で、イエス様に「わたしの隣人とは誰ですか」と尋ねます。それに応えてイエス様は「ある人がエルサレムからエリコへ下って行く途中、追はぎに襲われた」という話をなさいます。
「追いはぎはその人の服をはぎとり、殴りつけ、半殺しにしたまま立ち去った。ある祭司がたまたまその道を下って来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。同じように、レビ人もその場所にやって来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。ところが旅をしていたあるサマリア人は、そばに来ると、その人を見て憐れに思い、近寄って傷に油とぶどう酒を注ぎ、包帯をして、自分のろばに乗せ、宿屋に連れて行って介抱した」(ルカ10:30-34)。
この話を聞いて「もし、私がそこを通りかかったらどうしただろうか」と律法の専門家も考えたかもしれません。しかし、イエス様の問いは「もし、あなただったらどうしますか」ではなく、「この三人の中で、だれが追いはぎに襲われた人の隣人になったと思うか」でした(同10:25-37)。
「もし私だったら」という問いを抱くとき、私の関心は、私の感じ方や考え方に向かいます。「この三人の中で、だれが追いはぎに襲われた人の隣人になったと思うか」という問いを抱くとき、私の関心は、この追いはぎに襲われた人の感じ方や考え方に向かいます。
イエス様の問いは、相手の立場に身を置いてみることへの招きでした。
第4章 2和解とは-共感としての愛 より
神が創造のわざを継続し、今も愛しておられるこの世界を大切にすることは、同じように、神が創造し愛してくださっている自分自身を大切にすることへとつながります。そして、自分を大切にする人は、真の意味において、他者を大切に想うことができる。しかし、それは一方通行ではなく、他者との出会いから自分を尊重することへと向かいます。循環的な関係がそこに生まれるのです。私たちは関係性やつながりの中で生き、生かされている存在です。個人のしあわせ、コミュニティのしあわせ、世界・宇宙のしあわせが、私自身と深く関わって、有機的に繋つながっていることに気づかされます。第3章に収録したティク・ナット・ハン氏の「私を本当の名前で呼んでください」は、その深い意味を私たちに教えてくれています。
さらに、人生で起きていること、家族、コミュニティ、世界で起きていることも含めて、私たちは変化し続ける「流れ」の一部を担っているということ。愛や正義、希望、勇気も、一つの出来事で完成するもの、一つの解釈で完結する固定されたものというよりは、もっと大きな、目には見えないものとしてたゆまず流れ続けているものです。私たちは、他者や世界と相互に依存し合う関係性の中に生きています。自分をその大きな繋がりの一員だととらえて、目に見えない大いなるいのちの源につながり続けるとき、私たちは常に新しい存在に創り変えられるでしょう。
- おわりに より
著者紹介
著者のプロフィールを紹介します!
田代 麻里江
Marie Tashiro
日本・米国・バングラデシュ等で医療公衆衛生活動と教育に従事、関西学院大学大学院神学研究科を経て、2021年より日本福音自由教会・クライストコミュニティ牧師/チャプレン。
富坂キリスト教センター「人間関係とコミュニケーション研究会」座長。
小笠原 春野
Haruno Ogasawara
立教女学院中高を経て国際基督教大学卒業。イエスの愛と非暴力に憧れるキリスト者。ベトナム、スリランカ、ベリーズ、クロアチア、スイスと13年間の海外生活の中で、多様性の素晴らしさ、平和の大切さを痛感し2002年に帰国。都立高校教員として平和をつくる生き方を模索中にNVCと出会う。2018年に沖縄に移住し、知念満二と共に極楽ハウス&ガーデンで土地や命とつながった暮らしに取り組みつつ、学んだことを分かち合っている。
「カミングアウト・レターズ」(RYOJI・砂川秀樹編集、太郎次郎社エディタス刊)に生徒との往復書簡で参加。
酒井 麻里
Mari Sakai
生後2ヶ月でカトリックの幼児洗礼を受ける。洗礼名はマリア。カトリック山鼻教会信徒。
北海道大学文学部哲学科卒業。大学卒業後、企業でシステムエンジニア、品質管理、人財開発、事業企画などに従事。仕事での必要性から、ファシリテーションを学び、組織内外で実践する。グラフィックで話し合いを可視化しながら、人と人が協働することをサポートする。子育ての中で、心からの声を聴く模索の過程でNVCに出会う。
2019年にファシリテーター、コンサルタントとして独立。人と組織に寄り添う共感的ファシリテーターを目指す。 ブログを読む白石 多美出
Dabide Shiraishi
日本基督教団春日部教会元牧師、JTJ宣教神学校生涯学習部カウンセリングコース元講師、JWTC(エホバの証人をキリストへ)元カウンセラー/講師、ギターの腕前はプロ並み。
三村 修
Osamu Mimura
日本基督教団佐渡教会牧師。新潟平和研究センター(CPSN)研究員。非暴力トレーニングのための「佐渡ピース・キャンプ」を企画・運営。富坂キリスト教センター運営委員。
岡田 仁
Hitoshi Okada
富坂キリスト教センター総主事。同センター「人間関係とコミュニケーション研究会」担当主事。日本基督教団牧師。明治学院大学非常勤講師。
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富坂キリスト教センター(岡田仁)
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本書の編者、富坂キリスト教センターは、日本キリスト教団の関係団体、日本キリスト教協議会(NCC)準加盟団体です。研究活動は10名前後で構成される各研究会が数年間の共同研究を重ね、これまでに約200名以上の研究者、専門家、牧師の方々に協力いただき、30冊を超える研究書・出版物を生み出してきました。その他の歩みについてもぜひサイトを訪ねてご覧ください。
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